Aの記

読めば読むほど強くなる本を探しています。

本田宗一郎 私の手が語る 講談社文庫

本田宗一郎

私の手が語る

講談社文庫 1985

 

やってみもせんで

 『私の手が語る』が文庫本になるそうだが、中身はそのままで値段が安くなることはうれしい。エンジンの性能を落さず、コンパクトにするようなもので結構なことだ。

 

 この文庫本には2つの後書きがある、1つ目は単行本時のもので、2つ目は文庫本になった際のもの。その文庫本時の後書きにあるのがこの文章だ。

なるほど、本田宗一郎はこういう人かと。「らしい」といえば「らしい」し、こっちも嬉しくなる。

 インタビュー記事や寄稿文等をまとめてもらった本は以前から出ていたが、自分の意向で書いた最初の本がこれであると言うことが書いてあるのが1つ目の後書きで、本田は思うままに書いたと言うが手書きのイラスト等もあり、それなりに力作のように思える。

 中見出しの「やってみもせんで」を筆頭に有名な本田語録がバンバン出て来る。

 多方面に渡って思う所や経験談を書いていて生き生きとした本田宗一郎は社長引退後も元気に活動してたんだろうなと思う。目に浮かぶ様でニヤニヤしながら読んでしまう。

 神格化され過ぎた本田宗一郎の実際については「ホンダ」の企業イメージ戦略の面も大きいらしく、少し気を付ける必要はあるが、気合いの入ったお爺さんではある事は間違いないだろう。

 現代の上手に無難にコスパ重視の世界観とは真逆の、1個1個の問題に体当たりで跳ね返されては乗り越えていく考え方は大変だろうが、日々、自分が強化されていくと言う面で最終的には勝つんだろうなと説得力がある。

1つの問題に全力で当たってみる、ちょっと必要なことかもしれない。

3月のライオンの登場人物、野火止あづさが言う「お得なルートばかり探して弱くなる」これは避けたい。

問題と向き合う精神力を付けたいところ、ただ出来ない事ややりたくない事なんて全くやらないと断言する本田宗一郎、周りは大変だったろうなー。

 

 ちなみに「語る手」は左手である、左手で支えて右手の工具で作業をするので怪我をするのは左手になる場合が多い、その左手の傷跡解説も面白い。

そして、「夢中になって仕事をしていると品物の出来上がりだけを考えていて自分の手など見ていないのだ。」ここも、今俺カッコ悪くないかな?とか思う自分を戒める。

 

後書きに戻る、1つ目の後書きには、これは徒然草の様なもの。2つ目の後書きには、これは私の幸福論であった。とある。

自分の人生観やこれまでこれからを本を書く為に総ざらいして、見栄張ることなく自然になる様にまとめて書いてみた、それを改めてみるとそれが幸福論と感じられるモノになっていた。

 こんな幸福な人生はそうは無いと思った次第。

 

2023年3月28日に更新しました。