Aの記

読めば読むほど強くなる本を探しています。

ハマボウフウの花や風

ハマボウフウの花や風


椎名誠 文春文庫
1994年9月10日 第1刷

 

参考までに、
単行本は1991年十月 文藝春秋

 

目次

倉庫作業員
皿を洗う
三羽のアヒル
ハマボウフウの花や風
温泉問題
脱出
秘密のあとがき(1991年 夏のおわりに)
文庫版のためのあとがき(1994年 5月)

 


「倉庫作業員」は山田洋次監督の映画「息子」の原作になる。
更に椎名誠本人によるSF長編小説「武装島田倉庫」になる。
武装島田倉庫」は鈴木マサカズにより漫画化。

 

「皿を洗う」は椎名誠本人による長編小説「哀愁の町に霧が降るのだ」になる。

 

「三羽のアヒル」は椎名誠本人により「あひるのうたがきこえてくるよ。」として映画化。

 

ハマボウフウの花や風」は1990年の直木賞候補になるも落選。


充実した短編集だ。

 


初めて読むつもりで図書館で借りたが、どうも読めば読むほど内容が思い出されてきて、最終的にはラストシーンだけ頭に浮かびつつ、ソコに向かう読み方になってしまった。

実家の本棚のどこかに隠れてると思われる。

 


倉庫作業員

山田洋次の映画「息子」が大傑作なのでそちらの印象が強い。

映画の主人公は父親になると思うが、原作には父親は出てこない。
つまり、原作には出てこない父親を創作しその父親を主人公にしてしまったと言う山田洋次の横暴というか天才ぶりを思い知らされる。

それでいて、原作のストーリーはほぼ取り入れてるし息子は当然大活躍する。。
凄いね、あのおじさん。

 

で、倉庫作業員だが、女の人、彼女、美しい人、カワシマさん、川島征子と主人公がヒロインを知るにつれての、心の中での呼び方の変化が良い。
解像度がグイグイ上がる感じだ。

問題は映画を先に見てしまってるので和久井映見しか思い浮かばない…。
映画を見ずに原作から読める(幸運な)人はどういった女性を思いうかべるのだろう?。
やはり和久井映見的な女性なんだろうか?。
まぁ、和久井映見で全然問題ないんだけどね。


映画の名台詞は原作では場所こそ違えどキッチリある。

原作では脳内、映画版では発言してるので、やはりダーヤマ的にも印象強いんだなと。

 

今考えると、あの映画の父親の存在の不確かさと言うか、幻と一緒に居るような頼りない感じと言うのも原作に居ないんだから、そりゃそうかとも思うし、
映画全体の妙にファンタジー入ってる感じも、その辺から来てるのかもしれない。

 

山田洋次のキャラクター設定が甘いと言う訳じゃなくて、独立してしまった息子にとっての父親の存在と言うのが、少しぼんやりしかけたものだと表現したいのかもしれない。

 

原作自体は一人称もいいとこで、本人から見た世界しか描かれないので、これはこれでスッキリ読める。

自分がやりたい事の為に労働することから、他者との結びつきの居心地の良さや、ヒロインとの将来を夢見て堅実性へと志向が傾いていくのも、大人になるって感じで良い。

 

昔よく歩いた街道沿いの道に、この話に出てくるような鉄材を扱う倉庫が有って、扉は開きっぱなしで歩きながら中が覗けたんだけど、シンッとして独特の雰囲気があった。

この物語を知ってる自分は、この倉庫にもそんな物語が…とか勝手に妄想して面白がっていた。

そう言えば、映画の舞台は東京の路面電車のある街も舞台にしていたはずだが確か終点か。
偶然にも近くに行って、もう少しで寄れたんだけど時間的に折り合いつかず、スルーしてしまったのが今もちょい悔しい。

いいよ、良い小説だ。

 

「皿を洗う」

「哀愁の町~」の方が良いかもしれない、これも良いけど。
ちょっと、やさぐれ感あるな。

これと倉庫作業員は1960年代後半位が舞台っぽい。

 

三羽のアヒル

教員がカッとなって仕事辞めて山に籠ってアヒル飼う話。無職。

 
ハマボウフウの花や風

この本の中では一番印象に残っていた話、喧嘩に明け暮れた青春時代を持つオッサンの話だが、自分は明け暮れた事が無いのでその辺の感じは良く分からないし、堂々とした青春時代に少し嫉妬も感じる。


ボクシング、アメリカ、刑務所、メキシコ、ヤクザ、横恋慕と、ドラマチックなのは間違いないが、この昔の青春漫画とその後みたいな世界観は自分は、どうも乗れない。
話しとしては面白いんだが、なんかまだるこっしい。

 

温泉問題

珍しく何が何だか分からない。情景描写は相変わらず目に浮かぶようだが、人がよくわからない。

 

脱出

今でいう毒親からの脱出を試みる話、ある程度は実話だそうだ。

大学受験で一浪して、受験への意欲を失いつつある人が主人公。
この時代は毒親の概念は無いので、過保護とか教育ママとかからの脱出か。

父親の影の薄さとか含めて、核家族の不味い所が短いながらも出ちゃってる感有り。

電話の向こうの母親のたった一言から感情を揺さぶられるとか、長期間ダメージを受けているのが分かる。

田舎の面倒臭さとか裏切り、浪人生の自己満足以上のものではない脱出劇が良い、それらを繰り返して少しずつ一人前になるんでしょうな、きっと。

 

親がどうだろうと、一生懸命勉強するのも大学行くのも良い事だと思うから、作中の人物がどうであろうと受験生は勉強した方が良いよ。

椎名誠も結局大学行ってんだから。

行く予定じゃない人は別に無理しなくても良い、親が嫌だからでやめるのは勿体ないと言うだけの話です。

 


全体的に、自分を見つめ直すとか、人生仕切り直すとか、過去を清算するとか、現状打破するとか、そんな感じか。

あとは一編を除いて、男女は(言葉では)通じ合えないと書いてるのかもしれないな。

 

後書きにもあるが椎名誠のアルバイト経験が随分と入っていて、そうでない話もモデルがいるらしい。

温泉問題はモデルの人が自分の中で、「こーいう人」っていうイメージが出来てれば面白いのかもしれない。

 

適当に流したけど、「皿を洗う」の寒い中で公衆電話から身勝手な女性に連絡を取るシーンが印象深いな。謎だ。

 


椎名誠のWebサイトでこの本の振り返り記事が少しあったのでそのリンク。

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