盲人は僕の隣の隣の診療科の前にある長椅子に座る。
すると、そう間を置かずに職員がやって来て、その盲人に話しかける。
「病歴を語る時間」が始まった。
初診診察の為のアンケートを盲人は書けないので、病院の人が項目・内容を読み上げ、それに盲人が返答する形で回答欄を埋めている。
正直、人の病歴など何の興味もないのだが、下向いて本読んでる自分の耳にもガンガン入ってくる、声のボリュームを下げられないタイプか。
「脳挫傷の恐れあり」
盲人は昨晩、酔っ払いに絡まれて頭に出血を伴う怪我を負った。その際に救急車で病院に運ばれ救急措置は受けた。(理由は不明だがその後に帰宅)
その病院はココではない別の病院らしいが、脳挫傷の可能性があるので翌日に精密検査を受けてくれと言われ紹介されてこの病院に来た。
のがこの病院に来る流れだそうだ。
アンケート内容を上から読み上げていくので、氏名、年齢、性別からしっかりハッキリ聞こえてしまっていて個人情報の安全性もへったくれも無い状態である。
年齢が割に自分に近かった。
「失明と糖尿病」
彼は中途失明者であった、糖尿病が原因で失明したらしい。
話の流れだと失明したのは成人以降だろうから、そこから視覚障碍者のトレーニングを受け独力で生活し(てるらしい)、白杖で街中を移動できるところ迄来たその努力は想像を絶する。
当然その日も一人で来ていた。
「結核」
糖尿病患者は結核になる確率が高いらしいが、彼は結核経験者であった。
入院・投薬もきちんとし今は誰にも感染させる状態ではないと自信を持って語っていた。
他にも病歴はあった様だが覚えてない。
それほど間を置かずに1人の人間にこんなにも大病や怪我が起きるものかと驚いた。
自分の診察を終え処方箋や会計に出す書類が出るのを待っている間に、
自分の隣に座った高齢の母親と娘(若作りの娘か孫の可能性もある)がアンケートを、
やはり読み上げ形式で書き込んでいたが、こちらも凄かった。
長生き=病歴のデパートになってた。
しかも辛い感じも全然なく、なんなら大病を忘れてて、そう言えばと後出して思い出してくるスタイル。
肉体以上に精神的にタフでないと長生きは出来ないわぁと思った。
(ちなみに待つ必要は無かった、直接会計にデータが行く病院であった。)
凄いハンデ背負って普通の顔して生きてる人が多いのだろうなと考えると、中々凄い。
視覚障碍者のハンデが視覚だけと思うなよ、であり。
年取って足も頼りなく病院の新システムにもついて行くことが出来なくなった時に、一人で病院に行く頼り無さを思うと寒気がするね。