Aの記

読めば読むほど強くなる本を探しています。

社会人心得入門

山口瞳

社会人心得入門

講談社+α文庫 2003

 

サントリーの宣伝や小説「江分利満氏の優雅な生活」で有名な山口瞳の御言葉集だ。

昭和に幾らか記憶がある僕は、トリスのTVCMのあの感じと山口瞳が直結している。

江分利満氏の優雅な生活もどこかにあるはずだ、アレは結構よいものだ。

裕福でなくても胸を張って多少無様でも気持ちだけはカッコつけて生きようぜ、的な世界感で、まぁ昭和である。

 

1978年から1995年までのサントリーの全国紙新聞広告、これがこの本の肝だろう。

1978年4月1日から1995年4月1日までほぼ同じ日付の新入社員向けメッセージが並ぶのは壮観である。

1月15日版もある、こちらは成人の日にちなんだもの。

どちらも若者への提言と酒を勧めている。

亡くなった年まで書いてるのだから恐れ入る。

願わくば新聞広告そのものの写真が良かったかな。

 

後は自身の著作物から適当に集めてきたものだ。

この本の別タイトルでの出版が1998年、亡くなったのが1995年なので

作者がなくなった後に家族の了承を得て編集出版したのだろう。

それを改題して出したのが2003年。

息子さんと酒友達らしき豊田健次氏の後書きが付く。

 

内容だが、出典一覧だけで7ページに渡る、つまり寄せ集めもいい処で、切り貼りと言うかモザイク模様と言うか、読み難い。

せめて文章量を揃えるとかどうにかできなかったのかと思う。

出典も一つずつに付けずに後半に一括で並べてしまって、御言葉の前後の文脈を元の文章から探し出すことも出来ない。

確かにこの手の本人無許可だろう御言葉集、例えばアランの幸福論だとか二宮翁夜話だとか文量も統一されてないし内容の重複もあるけれど、中身の充実度が違い過ぎる。

 

Q、昭和のそこそこ成功したオジサンの独り言をどう受け止めればよいのか?

A、同時代を経験したオジサンが共感すればよいのです。

そう、つまり若者向けに助言している体で書かれているが、この文章の大半は山口瞳と時代感を共にした人たちへの「なー?俺たちそうだよなー?」なのである。

 

つまり、新入生諸君は

「へーそうなんですねー」と受け止めればよいのである。

 

しかし、この当時と今とでは企業と社員との信頼関係も違うし、殆ど参考にならないと思うが、社長とか上の方の社員にこういう価値観の人が少し残っていると思っておけば役に立つかもしれない。

僕も酒の飲み方がとか、飲み会がとか、金じゃないんだよ、とか色々言われた気がする。それが良かれと思って言ってくれていると受け取れるならストレスが少しは減って精神安定上良い効果を生むかもしれない。

 

ん-、時代が変わったのか、作りが悪いのか、ここ迄イライラするもんなんだなぁ、的外れな言葉というのは。全部が全部じゃないが半分は読むに堪えない、残りの半分はちょっと良い、残りの半分はどうでもいい。ちょっと良いは中々ちょっと良いので砂浜から綺麗な貝殻を見つける気持ちで読むなら悪くない。

 

晩年の死を強く意識しだした文章は、良い。

特に95年の1月の新聞広告は何故か文章量がそれまでの1.5倍ある、4月のは意味が理解し辛い。病苦の中で書いたであろう文章はやはり違ってしまうんだろう。

その辺の文章でようやく、共に生きる苦しみが分かち合える気がする。

阪神大震災にオウムの地下鉄サリン事件、その年に「昔はさぁ」ではもう何も解決できない事が流石に理解されたのかもしれない。

 

「俺の若い頃は!」ではなく、今を何とか生きる、今が踏ん張り時なんだ、そして頼むよ若いの、頑張ってくれ、

 

そんなのがチラッと見えたのは収穫だった。

僕は酒を殆ど飲まないけど、サントリーのTVCMもサントリー提供の番組も好きなものが多かったから、憧れではあったのよね。その内に何か部屋に飾ってみよう、チョットは飲んでみよう。

 

 

 

 

2023年3月28日に更新しました。