敗走記
講談社文庫 2010年
ゲゲゲの鬼太郎で有名な水木しげるの戦記漫画を6編に、本人の後書きが付いてる。
「本書は1991年11月に株式会社コミックスより刊行されました。」と最後にあるので、この後書きは1991年だから水木しげる69歳の時のものじゃなかろうかと思う。
内容は以下。
- 敗走記
- ダンピール海峡
- レーモン河畔
- KANDERE
- ごきぶり
- 幽霊艦長
- あとがき
後書きによれば、友人の話、水木自身の体験、兄から聞いた話等に幾らか脚色を加えたものらしい、後日談も少しあり嘘みたいな本当の話(オーストラリア側のスパイだった人物が戦後普通に日本で暮らしているとか)も面白い。
子供の時分に水木しげるの戦争物は結構読んでいた、多分、図書館にあるのを読んだのだと思うが、自分には関係ないもう2度と来ない遥か昔の話で漫画としては地味でツマラナイと当時は受け取っていた。
これが大人になってから読み返すと、生々しい戦争の記録であり、しかも日本の代表的漫画家の一人が当事者意識で描いた稀な作品だと確認出来た。
兵が死ぬ前提の作戦をバンバン命令してくる大本営に、上がそう言ってるから死んで来てと言っちゃう上官達。
明日は玉砕か、とふて寝しちゃう兵隊たち。
現地人との奇跡的に良い話とかもあり、救われた気持ちにもなるが、それにしても死者数が多すぎてなぁ。
戦争ってなると1から10まで悲劇的だったり英雄的だったりしがちだけど、普通の人が普通のまま居て気負わずに読める話(でも玉砕かな…)も入ってるので、キツイのは嫌だけど戦争について少しは知っておきたいとかで読んでもいいのかな。水木しげるも漫画と言う手法で「まぁ読んでみてよ」と言う気持ちもあるんだろうし。ただ、誰かが死なないと話が終わらないシステムがな…。
濃い目の劇画風のも、鬼太郎まんまの絵柄もあって絵の幅が広いのねと思ったりもしたが描かれた時期が大分違うんだろう、初出の時期を調べてないが、後の作品だと思われるものは円熟味と言うかシミジミした面もあってなかなかいい。
しかし、日本は死の捉え方がおかしいな。
おかしいんだけど、上官が「死んで来て」と言う気持ちも大本営が生存者ゼロの作戦を出すのも何となく納得できてしまう自分は日本人としての洗脳が良い具合に出来上がってるのかもしれない。
ロシア・ウクライナも、逃げれば非国民で残って戦えば英雄なのかもしれんが、
それじゃあ太平洋戦争の時の日本と大差ない。子供の時に読んだ時より今の方が生々しく感じるのは、今がそういう感じだからだったら嫌だな。
タイトル後の「それでも僕は生きてかえってきた」は漫画を描いてる現代の水木のセリフ。
また、読みます。
NHKの戦争証言アーカイブスで2010年4月28日に収録されたインタビューが見られる。
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2022年9月20日更新しました。