スローカーブを、もう一球
著者 山際淳司 出版社 角川文庫 定価:616円(本体560円+税)
発売日:昭和60年2月初版 平成23年11月 旧版63刷発行 平成24年6月 改版初版発行
「スローカーブを、もう一球」 山際 淳司[角川文庫] - KADOKAWA
読んでおくと良い人。
生き残る為の、勝ち続ける為の心構えや生活様式をスポーツから学びたい人。
どういう人が負けるのかの実例が読みたい人。
中学生位から読んでも良いし、大人になってから読んでも良い。
男女の向き不向きは分からないが、女性が読んだ場合、男は多かれ少なかれこう言うものだと知っておくことが出来、古傷に塩を塗る事態を避けられるかもしれない。
概要
スポーツノンフィクションとしては傑作に入る。
旧版で63刷だからね、とんでもなく売れてる、しかも結構長い期間。
スポーツ系なら必読書。
有名な「江夏の21球」(何故これを裏表紙に記載しないのか??)を含む8作品。
僕のは平成24年の改版初版。
目次
八月のカクテル光線
江夏の21球
たった一人のオリンピック
背番号94
ザ・シティ・ボクサー
ジムジナウムのスーパーマン
スローカーブを、もう一球
ポール・ヴォルター
目次を競技に置き換えるとこうなる。
高校野球
プロ野球
1人乗りボート
プロ野球
プロボクシング
スカッシュ
高校野球
棒高跳び
内容について
「スローカーブを、もう一球」をタイトルに持ってきたという事は、スポーツも人それぞれ取り組み方あるけど、自分の思う様に後悔無い様にやるのが一番よね。である。
インタビューが多いのだが、生々しい感じはなく、ある程度ろ過されていると言うか、ゆっくり読める文章。
現役終えてすこし経ってからのインタビューが多いから、話し手も整理がついている人が多いのかな、そうでない人もいるけれども、まぁ無理だよなぁ。
勝者も敗者も出てくるが誰かを全否定はしてない。
ただ、スポーツを通じて養われるものや浮き出てくる人間性はある位は書いてる。
読み様によっては、
若ければ「こうはなるまい」年いってれば「そんなことあったかなぁ」、今その最中なら人生の総点検をしだす人も居るかもしれない。
その競技で生活が成り立つかどうかのイメージも少しは掴めるかもしれない、今はだいぶ違うか…。
テレビゲームの格闘技で食えてる人も居る位だしなぁ。
80年代の文章は微妙に気恥ずかしい部分が有るものの、日本自体は上り調子の時代なので暗さはない。
ただエアポケットと言うか、柱が無いと言うか、生きる意味を自分で見出さなければならない、ぼんやりした空気も感じられる。
必死にならないと人生の輪郭すら見えてこない、スタートもゴールも。
仮に見えたと思っても、それもどうだか分からないし。
まぁ、それは現在も有るんだけども。
その中で自分の人生の密度をどんだけ上げるかという意味でも
得るモノが有る本じゃないかと。
まぁ、自分で上げてかないとどうにもならんのだけど。
ああ、健康維持目的のジョギングとか柔軟とかする時のモチベーションアップにも少しだけ繋がるかも、運動してる俺カッコいいよね、むしろカッコよく運動すべき的な感じで。
ただ、別に何にも考えなくても凄い面白い、他人の人生は面白いよ。
ドラマ化すればいいのに。
江夏の21球に関してはyoutubeとかで過去に作られたドキュメンタリー番組がアップロードされていると思う。僕もそれで見た。
関連して
昔、小学校の同級生にリトルリーグで活躍したのが居た、親が監督な上に体格・身体能力に恵まれていた。クラスが一緒になった時もあったが正にスポーツ万能で所謂ガキ大将であった。
僕は中学から地元の学校には通わなくなったので、よく知らなかったが野球で強い高校に入ったとは聞いていた。
僕が高校2年生位の頃か、当時睡眠障害やらで眠れず夜遅くに地元の商店街のゲームセンターに行ったりしてた。
そこから出ると、その野球の上手い子が小学生の頃の面影残る同級生達と集団で歩いていた。
別に仲が良い訳でも無いので「歩いてるな」と見送ったわけだが、「ダメだったか」とも思った。
1度しか見てないので実際は知らないんだけど、なんかダメになった感があった。
深夜のゲームセンターから虚ろな目で出てくる人間と、友人と連れだって歩いている人間でどちらがダメかと言えば断然僕になるわけではありますけれども。
ちなみに、活躍したのかどうかも知らないが、彼の入ったとされる学校はその時代に甲子園に行ったと思う。
挫折
ただ、挫折(したのかどうか知らないよ)も悪い話というだけでもない。
僕の親の話だが、
「スポーツ、特にプロスポーツで身を立てようとする人は良い。何故なら人生のやり直しがきくから」
と言う謎の持論がある。
親曰く
「殆どの人は早ければ中学高校時点で、遅くても20代の内に戦力外通告を受け辞めざる得なくなる」
そこからなら人生を再設計可能と言うのが親の考えだ。
あと、自分の得意分野で全精力をかけて夢がかなわなかった経験は貴重らしい。
これが年取ってもギリギリ生活が何とかできるレベルで続けられると人並みの生活が送れずに辛いことになるし、晩年成功しても若い頃を取り戻すことは出来ない。
芸術・表現・創作物系とか資格系、研究職は引き際が難しい。
極論で言えば
「特にお相撲さんはイイよね」
なんだそうだ。相撲部屋の稽古など1mmも分からないだろうになぁ…。
僕はスポーツに入れ込み過ぎる事は後の生活に障害が残る事も多く
過度な生活習慣やパワハラ体質が身につく可能性もあるので
余り賛同は出来ない。
しかし、教えられる事は非常に多いので、スポーツ物は大好き。
8編の中で、表題作も当然良いし、どれも良い、みんな価値観が大分違う。
辛い見本としては、プロに入ったもののバッティングピッチャーに収まってしまった元大器の物悲しさも良い(これは本当に大事な話、人生を切り替えるならこれ読んでおくと良い、日々是決戦感を持てるかどうかだ)。
特に好きな話はスカッシュの脳筋(頭まで筋肉で出来ているかのような人)。
人生の全てを制御下に置いてる感じが良い、全然置けてない感じがしてもオールOKな感じも尚良い。アニマルな感じがね、人としては嫌な奴だろうけども。
この人は勝者だけど、スポーツで食えている訳じゃないからプロスポーツにおける成功者ってわけでもないのもまた。
つまるとこ、日々充実し最後に納得出来れば良いのだと着地するのかな、着地はしなくていいのか、何はどうあれ、それでも生きていくと言う話だしな。
それと、タイトルの「スローカーブを、~」の「、」を入れるのがその章の文末の雰囲気とダブっていて非常にカッコいい、何か一拍入る、これは読んでみるとなんだけど、何も書けねえ、美味しいとこだから。
勝負論としては負けに傾くが人生論としては、僕もスローカーブを、
投げときたい。
A LONG VACATION 40th Anniversary Edition (通常盤)
松岡正剛氏の書評があった。
この本の著者の山際淳司は若くして亡くなっており
松岡氏の書評の2002年では、死後数年経っている。
だからこその締めの言葉である。